再生可能エネルギーの導入が進む中、電力の安定供給を支えるインフラとして「系統用蓄電池」への注目が高まっています。電力系統に接続して、電力の需給バランスの調整やピークシフトを担う系統用蓄電池は、再エネ導入拡大に必要不可欠なインフラになるでしょう。
この記事では、国内外の主要な系統用蓄電池のメーカーについてご紹介いたします。
系統用蓄電池を導入・検討する際に参考にぜひご覧ください。
再エネ拡大のカギを握る蓄電池メーカーの実力とは?
系統用蓄電池の開発・製造には、国内外の多くの企業が参入し技術革新を進めています。
国内主要メーカーの特徴とサービス
日本メーカーは、長年培ってきた高い技術力と品質管理を強みに、多岐にわたる蓄電池システムを提供しています。
東芝エネルギーシステムズ株式会社
東芝は蓄電池事業において独自のリチウムチタン電池「SCiB」を活用した高信頼性の蓄電システムを展開しています。この「SCiB」は、発火リスクが極めて低く、充放電寿命が通常のリチウムイオン電池の数倍にのぼることから、安全性と長寿命を重視するプロジェクトに最適とされています。
主な特徴
- 高い安全性: 発火リスクが極めて低い
- 長寿命: 通常のリチウムイオン電池の3-5倍の充放電寿命
- 急速充電対応: 6分で90%充電可能
- 幅広い温度範囲: -30℃~45℃での動作が可能
特記事項
- 北海道電力南早来変電所での実証実験
- 東北電力西仙台変電所での系統用蓄電池運用
- メンテナンスサービスとリモート監視システム完備
日立エナジー
日立エナジーは、系統用蓄電池においてBESS(Battery Energy Storage System)+EMS(制御システム)を一体で提供するのが大きな特徴です。
元々は日立製作所とABBの合弁事業として始まりましたが、現在は日立製作所の完全子会社としてグローバルに展開しています。変電・送電・系統制御の専門家集団としての強みを持っています。
主な特徴
- 統合制御システム: 蓄電池とEMSの一体制御
- グローバル実績: 世界140カ国以上での実績
- スマートグリッド対応: 次世代電力システムに対応
- カスタマイズ対応: プロジェクトに応じた最適設計
特記事項
- システム設計・施工・運用保守の一貫サービス
- 24時間365日のリモート監視
- 予防保全・予知保全サービス
ニデック株式会社
モーター世界大手のニデック株式会社は、蓄電池業界でも存在感を増しています。
特に注目されているのはPCS(パワーコンディショナー)と蓄電池を一体化したパッケージシステムで、これにより設置や運用の簡易化、スペース効率化が進められています。
ニデック株式会社は欧州をはじめ海外市場にも蓄電設備を展開しており、グローバル展開を意識したモジュール設計や高い拡張性が特徴です。日本企業ならではのきめ細やかな品質管理・メンテナンス体制も強みとして評価されています。
主な特徴
- PCS一体型: パワーコンディショナーとの一体化でコンパクト化
- モジュール設計: 高い拡張性と柔軟性
- グローバル展開: 欧州市場での豊富な実績
- 品質管理: 日本企業ならではの細やかな品質管理
特記事項
- 独自のインバーター技術活用
- 高効率電力変換(変換効率95%以上)
- 長期間の安定運用実績
京セラ/オムロン
京セラやオムロンは、どちらかというと中小規模の蓄電ソリューションを得意とする企業です。
災害時の電力バックアップや、地域のマイクログリッドへの対応、需要家側でのピークカット用途などに多く用いられています。どちらも日本の法規制を熟知しており、安心して導入できる蓄電システムを構築しています。
主な特徴
- マイクログリッド対応: 地域密着型システム
- 災害対応: 非常用電源としての高い信頼性
- 需要家側ソリューション: ピークカット・電力コスト削減
- 法規制対応: 日本の電気事業法完全準拠
特記事項
- セラミック技術応用: 独自のセラミック技術を活用した高耐熱性・高信頼性コンポーネント
- 太陽光連携最適化: 太陽光発電システムとの高度な統合制御技術
- 長期耐久性: セラミック部材による20年以上の長期安定運用
- 環境適応性: -20℃~60℃の幅広い動作温度範囲
- モジュラー設計: 段階的容量拡張が可能な柔軟性
- 独自BMS: バッテリーマネジメントシステムによる最適充放電制御
海外メーカー主要メーカーの特徴とサービス
海外メーカーは巨大な市場を背景に、大胆な投資とスケールメリットを生かした海外メーカーが躍進しています。
CATL
世界最大規模の電池メーカーであるCATL。EV用バッテリーで知られていますが、系統蓄電池の分野でも圧倒的な存在感を放っています。特にLFP(リン酸鉄リチウム)セルの量産体制は世界トップレベルで、数百MWhから数GWh級の蓄電プロジェクトにも対応しています。
日本国内でも、法人による民間案件でCATLのセルが一部で使用が始まっており、今後日本市場への参入がさらに加速する可能性があります。
系統用蓄電池にも注力しており、中国国内の電力安定化プロジェクトや欧州の再エネ導入に向けて多数の実績があります。モジュール型の「EnerOne」や、コンテナ型の「EnerC」など、高スケーラビリティな製品ラインを展開しています。
主な特徴
- 圧倒的な生産能力: 年間生産能力500GWh超
- LFP技術: リン酸鉄リチウムの量産技術世界トップ
- 大容量対応: 数GWh級のメガプロジェクトに対応
- コスト競争力: 大量生産によるコストメリット
特記事項
- EnerOne: モジュール型蓄電システム
- EnerC: コンテナ型大容量システム
- Qilin Battery: 次世代高性能電池技術
テスラ
テスラが展開する、系統用蓄電池「Megapack(メガパック)」はグリッド向けに特化した大型蓄電池モジュールです。あらかじめバッテリー本体・PCS・冷却装置・制御ソフトまでが統合されており、設置の簡便さと稼働のしやすさが特徴です。既に海外では「数秒以内で出力調整可能な電源」として電力市場に組み込まれているケースも多数存在しています。
主な特徴
- オールインワン設計: バッテリー・PCS・制御システム統合
- 高速応答: 数秒以内での出力調整
- ソフトウェア制御: OTAアップデートによる機能向上
- 実績豊富: 世界各国での大規模プロジェクト実績
特記事項
- 容量: 1ユニットあたり3.9MWh
- 出力: 最大1.5MW
- 効率: 往復効率90%以上
- 寿命: 20年間の長期保証
LGエナジーソリューション
韓国メーカーのLGは、リチウムイオン電池の老舗としてESS(エネルギー貯蔵システム)分野でも確固たる地位を築いています。
従来のNMC(ニッケル・マンガン・コバルト)系に加えて、より安全性を高めた安全性能を備えた製品を開発中で、発熱対策や冷却システムにも注力しています。
また、海外では住宅用から商用・産業用まで幅広いラインナップを展開しており、信頼性と価格のバランスに優れたグローバルプレイヤーといえます。
主な特徴
- 幅広いラインナップ: 住宅用から産業用まで対応
- 安全性向上: 次世代安全技術の開発
- グローバル展開: 世界各地での製造拠点
- 品質管理: 厳格な品質管理体制
特記事項
- NCM技術: ニッケル・マンガン・コバルト系電池
- 熱管理システム: 高度な冷却・加熱制御
- 長寿命化: 8,000サイクル以上の充放電寿命
BYD
EVで知られているBYDも蓄電事業を拡大しています。車載用電池技術をベースに、大規模なLFPバッテリーを展開しており、オーストラリアやアメリカ、ヨーロッパなどでプロジェクトを展開しています。コストの安さと対応スピードの速さが魅力です。
主な特徴
- 垂直統合: 電池セルから制御システムまで自社開発
- LFPリーダー: リン酸鉄リチウム技術のパイオニア
- コストパフォーマンス: 高品質・低価格の実現
- 納期の早さ: 発注から導入までのスピード
特記事項
- オーストラリア: 大規模太陽光併設蓄電プロジェクト
- 米国: カリフォルニア州での系統安定化プロジェクト
- 欧州: 再エネ統合プロジェクト多数
国内メーカーと海外メーカーの違いとは?
国内メーカーの系統用蓄電池は、安全性と信頼性を重視して設計されています。
東芝エネルギーシステムズの「SCiB」は、リチウムチタン系のセルを採用して、発火しにくく長寿命という特性を持っています。これは地震や災害リスクの高い日本において「電力供給を止めない」という発想を支える要ともいえます。
また、日立エナジーやニデック株式会社は、蓄電池だけではなくパワーコンディショナーやEMS(エネルギーマネジメントシステム)との統合制御を得意としています。これにより、単なる蓄電設備ではなく、電力の需給バランス調整やグリッド安定化の役割を果たすことが出来ます。
国内メーカーの強みは、日本の法規制や運用現場に即した「安心して導入できるシステム設計」です。
一方、海外メーカーは国内メーカーとは異なる方向性で市場にアプローチしています。
中国メーカーのCATLやBYDは自社で量産するLFP(リン酸鉄リチウム)セルを使い、非常に大容量で低コストな蓄電システムを提供しています。テスラも系統用蓄電池「Megapack」で世界中に実績を積んでおり、設置が簡単・ソフトウェアによる統合制御が可能という強みを持っています。
海外勢のこうした製品は、価格競争力が非常に高く、発注から導入までのスピードが速いのが特徴。グローバルな電力市場や再エネ発電所、大規模な電力会社のプロジェクトなど、「規模と効率」を求められる現場に強みを持っています。
国内メーカーと海外メーカーの比較表
項目 | 国内メーカー優位 | 海外メーカー優位 |
---|---|---|
安全性重視 | ○ | △ |
初期コスト重視 | △ | ○ |
カスタマイズ性 | ○ | △ |
大容量案件 | △ | ○ |
保守・メンテナンス | ○ | △ |
導入スピード | △ | ○ |
まとめ
系統用蓄電池は、電気を貯めるだけではなく、電力系統の需給バランスの調整や電圧安定化など、さまざまな場面で支えとなる技術です。再生可能エネルギーの導入に貢献し、持続可能で安定した電力供給の実現の要となるでしょう。
国内外のメーカーが日々、より高機能で安全、かつ経済的な蓄電システムの開発を進めることで、電力システムは日々進化を遂げています。未来の電力システムを構築する上で系統用蓄電池の役割はますます大きくなることでしょう。