系統用蓄電池の事業参入や案件購入を進める際、「実際の稼働案件は、どのような規模や体制で運営されているのだろうか」と思う方も多いのではないでしょうか。
本記事では、自社の事業や土地活用を検討している企業担当者に向けて、商業運転開始を確認できた『紀の川』『武雄』『串間』の3事例を取り上げます。
それぞれの設備規模(出力・蓄電容量)や運営体制の違いを見ていきながら、実際の事例から、事業を進める際に確認したい土地や設備、契約内容のポイントを整理していきましょう。
国内3事例の規模・運営体制と特徴
各事例の設備規模(出力・蓄電容量)と商業運転開始日、運営体制の特徴を、以下の表にまとめました。
| 案件名・所在地 | 出力・蓄電容量 | 商業運転開始日 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 事例1|紀の川蓄電所 和歌山県紀の川市貴志川町北 |
48MW・113MWh | 2024年12月1日 | 市場運用と維持管理を別会社が担当 |
| 事例2|武雄蓄電所 佐賀県武雄市・九州製鋼佐賀工場内 |
2MW・8MWh | 2025年11月27日 | 4社が出資し業務を分担 |
| 事例3|串間蓄電所 宮崎県串間市南方 |
約2MW・約8.1MWh (1,998kW・8,128kWh) |
2026年4月7日 | 出資会社が運用・制御も担当 |
※出力は一度に充放電する電力、蓄電容量は蓄えられる電力量を表します。商用の系統用蓄電所を対象とし、自家消費用や実証設備は含みません。
※設備規模は各社の公表値です。表の日付は商業運転の開始日で、調査日当日の稼働状況を示すものではありません。(調査基準日:2026年10月)
事例1:市場運用と設備保守を別会社が担当
紀の川では、市場で取引する会社と設備を維持する会社が分かれています。オリックスの運転開始に関する発表(PDF) によると、事業主体は関西電力とオリックスが各50%を出資する紀の川蓄電所合同会社です。施工はきんでん、市場運用はE-Flowが担当します。
運営・維持管理はオリックス・リニューアブルエナジー・マネジメントが担当し、2025年1月1日付の受託を公表 しています。関西電力の発表(PDF) では、卸電力市場・需給調整市場・容量市場の3市場を活用する方針が示されています。
運用と保守を別会社に委託する際は、故障時の取引停止と復旧判断を誰が担うか、契約で確認しましょう。
事例2:4社が出資し、担当業務を分担
大阪ガスの商業運転開始に関する発表 によると、武雄蓄電所合同会社には次の4社が出資し、業務を分担しています。
- エムエル・パワー:事業会社の運営
- 大阪ガス:蓄電池の運用と電力市場での取引
- JFEエンジニアリング:発注者側の技術支援
- 九州製鋼:土地所有者との調整
2024年7月の事業参画に関する発表(PDF) では、卸電力市場・需給調整市場・容量市場での取引を通じ、系統を安定させる方針を示しています。それぞれ、電力量を売買する市場、需給や周波数を調整する力を取引する市場、将来の供給力を確保する市場です。
共同事業に参加する際は、出資に加えて運営なども担うのかを整理しましょう。
事例3:商業運転開始後に需給調整市場へ参入
串間では、商業運転と需給調整市場での取引が、別の日に始まっています。2026年4月7日のイーレックスの発表 では、宮崎県串間市蓄電所合同会社の出資会社はイーレックス100%とされています。同社は、設備の制御と市場運用を担うアグリゲーターです。
4月の商業運転開始後、8月4日に需給調整市場の「一次調整力(オフライン)」で初回取引を開始 しました。これは電力の周波数変動に応じる調整力の商品です。卸電力市場や容量市場も組み合わせる方針を示しています。
案件購入時は、運転開始日と市場への参入時期を分けて確認しましょう。
参考:市場ごとの収益の仕組みは、系統用蓄電池のビジネスモデルを解説する記事で紹介しています。
検討中の案件や土地活用に活かすための3つの確認事項
3事例を参考に、検討中の案件や土地活用の計画を進める際は、系統接続と土地、運用と保守、収支の前提の3点を確認しましょう。売主や開発担当者から資料を集め、順に照合していきます。
確認1|系統接続の進捗と土地条件の確認
電力系統につなぐための接続検討の回答、契約申込みの進捗、接続工事の費用負担、接続予定日を確認しましょう。「申込済み」の表示だけで接続日が確定したとは判断しないよう注意が必要です。土地は境界・利用権限に加え、搬入路、造成、浸水、騒音を調べ、追加費用と工程への影響を整理することが必要です。
搬入路や敷地形状、周辺環境の確認項目は、系統用蓄電池の土地選定の条件・選び方で解説しています。設置可否や許認可は、所在地の自治体等に個別確認してください。
確認2|運用・保守の担当と責任範囲の確認
市場への入札、充放電の指示、設備点検、故障対応の担当を確認しましょう。委託料や収益配分に加え、停止時の連絡順序、復旧判断、契約終了時の運用データの引継ぎも照合することが必要です。会社間の業務の境目に対応漏れがないかも確認しましょう。
確認3|市場取引開始までの期間を含めた収支の検証
市場ごとに取引開始時期と想定価格を設定し、充電費、電力損失、保守費、電池交換費などを差し引いて試算しましょう。串間のように商業運転開始と需給調整市場への参入時期が異なる場合を想定し、開始遅延や価格下落でも資金が足りるか検証することが必要です。売却側は想定値と実績値を分け、購入側は算定期間と根拠資料を照合してください。
事例検討に関するよくある質問
ここまでの確認事項を踏まえ、公開された事例を検討中の案件や土地に当てはめる際に迷いやすい収益性・施工体制・必要な敷地面積について補足します。
Q. 公開情報だけで収益性まで判断できる?
設備規模や運営体制だけでは判断できません。3件とも、確認した資料では市場別の収益や投資回収の実績を確認できません。検討中の案件については、市場ごとの取引開始時期や価格、運用・保守費などの前提をそろえて収支を試算する必要があります。
Q. 出資企業が設計・施工も担当する?
必ずしも同じではありません。武雄では、ダイヘンの設備納入に関する発表 によると、設計・施工はJESCOエコシステム、機器の設計・開発はダイヘンが担当しています。出資者一覧だけで施工体制を判断せず、工事契約の相手と担当範囲を確認してください。
Q. 同じ出力なら必要な土地の広さも同じ?
同じとは限りません。公表敷地面積は、武雄が約600㎡(事業概要PDF) 、串間が1,887㎡ です。両案件の面積に含まれる範囲や設備配置は、同じ条件とは確認できません。お手元の土地に設置できるかは、配置図で確認しましょう。
案件購入・土地活用に向けた個別のご相談
事例を参考に、お手元の土地や購入候補の案件を評価するには、接続条件と契約内容の個別確認が必要です。系統用蓄電池.comでは、全国の物件・開発情報を紹介し、協力会社と連携して用地の確保から設置・運用までの事業化をサポートしています。
「自分の土地を活用できるか」「購入候補案件をどう評価すればよいか」など、お悩みの方は、系統用蓄電池.com お問い合わせ窓口 よりお気軽にご相談ください。