はじめに:系統用蓄電池が注目される理由
2050年カーボンニュートラル実現に向けて、再生可能エネルギーの導入が世界的に加速しています。しかし、太陽光発電や風力発電などの自然変動型電源は出力が不安定という課題があります。この課題を解決する技術として、「系統用蓄電池」への注目が急速に高まっています。
本記事では、系統用蓄電池の導入を検討している事業者の皆様に向けて、そのメリットとデメリットについてまとめました。
系統用蓄電池の導入をお考えの方は、ぜひ参考にしてください。
系統用蓄電池とは?
系統用蓄電池とは、発電所から需要家(家庭・工場など)へ電力を届ける電力網(系統)に直接接続される大規模な蓄電システムです。電力の需要と供給のバランスを調整し、電力系統の安定化を図る重要な役割を担っています。
この技術は既に日本だけでなく世界各国で導入が進んでおり、将来の安定した電力インフラを支える鍵となる技術といえるでしょう。

系統用蓄電池のメリット
1. 「卸電力市場」の発電事業を活用して収益を得る
系統用蓄電池の最大のメリットの一つは日本卸電力取引所(JEPX)を活用して利益を得ることができる点です。発電事業者が発電した電力を売却し、小売電気事業者がそれを購入することで取引が成立します。
系統用蓄電池は余剰電力が安価な時間帯(深夜など)に蓄電し、価格が高騰する時間帯に放電して売却する「価格差取引(アービトラージ)」が可能です。卸売電力市場の価格変動を活用して利益を得ることが出来ます。
また、需給調整市場と呼ばれる電力の安定供給を確保するために電力の需要と供給のバランスを調整する市場が存在し、市場からの要請に従って系統用蓄電池に蓄電した電力を系統に放電して売却することで利益を得ることができます。
2.ピークカットを活用することで電力コストの最適化
ピークカットとは、1日の中で電力を多く使用する時間帯の電気使用量を削減することを指します。
電力が安価な時間帯(早朝・夜間)に系統から電力を購入して、蓄電池に充電します。
その後、電気料金が高くなる昼間や電力使用量がピークになる時間帯に、充電しておいた蓄電池から電力を使用することで電力コスト最適化に繋がります。
3.災害時などへのBCP対策
BCP(事業継続計画)対策としても系統用蓄電池は有効です。災害時の停電に備え、通信機器やサーバーの稼働を維持することで、データ損失や業務停止のリスクを軽減します。
現在のビジネスでは、ITシステムが重要な役割を担っています。停電によってシステムが停止すると、事業継続に深刻な影響を及ぼす可能性があり、企業の信頼性にも関わります。
系統用蓄電池は停電時のバックアップ電源として機能し、BCP対策に有効です。
4. 再生可能エネルギーの有効活用
系統用蓄電池は、太陽光発電や風力発電などの出力変動を平準化し、再生可能エネルギーの効率的な活用を可能にします。
5. 電力系統の安定化への貢献
電力需給バランスの調整により、系統全体の安定性向上に貢献し、社会インフラとしての価値を提供します。
系統用蓄電池のデメリットは?
導入時のコストがかかる
系統用蓄電池の最も大きな課題の一つが、初期導入コストの高さです。
系統用蓄電池の価格は、容量(kWh)あたりの単価で示されることが多く、容量が大きくなるほど単価は低くなる傾向にあります。2024年度の蓄電池システム価格はおおよそ5.4万円/kWhで、例えば2MWh(2,000kWh)の系統用蓄電池を導入する場合、目安として「1億800万円」程度と考えられます。
また、既存の土地を活用しない場合は、系統用蓄電池の設置に適した土地を確保するところから必要となります。土地そのものの費用はもちろんのこと、適した土地の捜索などにもコストや労力が必要になることにも注意が必要です。

市場変動リスク
上記でご紹介した導入時のコストをクリアしても、電力価格の変動による収益への影響があります。
系統用蓄電池の事業性は電力市場の動向に大きく左右されるため、電力価格の変動や需要調整市場の状況などは収益に直結するため、常に注視する必要があります。
系統用蓄電池の運用においては、電力の需給調整や市場取引を行う適切なアグリゲーターと契約することが、収益を得る一歩となります。
アグリゲーターとは電力を束ねて、効率的に・安定的に電力の受給バランスを取る「アグリゲーションビジネス」の中心として電力の需給バランスを調整する事業者のことを「アグリゲーター」と呼んでいます。
継続的なメンテナンスが必要
定期的な点検とメンテナンスによって、システムの異常を早期発見し、故障やトラブルを未然に防ぐことができます。
蓄電池の温度、電圧のモニタリングや吸排気経路の清掃などの日常点検や定期的な点検、数年ごとに大規模な点検を実施する必要があります。そのため、適切な保守・メンテナンスを行ってくれる業者を選ぶことも必要となってきます。
まとめ
系統用蓄電池は、初期導入コストや運用の複雑さといった課題があるものの、収益機会の創出、コスト削減、災害対策、社会貢献という4つの大きなメリットを同時に実現できる極めて価値の高い投資といえます。特に電力市場での価格差取引やピークカット効果による収益性、そしてBCP対策としての企業価値向上は、長期的な競争優位性を築く重要な要素となるでしょう。将来的には、蓄電池の価格低下や制度の整備が進むことで、より多くの企業や自治体が導入を検討する可能性があります。再エネ主力電源化を支える柱として、系統用蓄電池は社会全体の持続可能エネルギーの発展に貢献する重要な技術と言えます。