2050年カーボンニュートラル実現に向けて、再生可能エネルギーの導入が世界的に加速している中で、「系統用蓄電池」という言葉を耳にする機会が増えてきました。「系統用蓄電池」は、電力系統に接続され、電力の需給バランス調整や再生可能エネルギーの出力変動を吸収するために用いられる大規模な蓄電池システムの事を指します。脱炭素社会への移行が加速する中で、この系統用蓄電池が新たな投資先として注目を集めていますが、その実態と将来性はどうなのでしょうか。
系統用蓄電池が注目されている理由は?
系統用蓄電池が注目を集めている背景には、複数の重要な要因があります。
第一の要因として、再生可能エネルギー導入拡大が挙げられます。太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーは、その性質上、天候によって出力が大きく変動します。例えば、日中は太陽光発電が大量の電力を供給する一方で、夜間や悪天候時には発電量が激減します。このような出力変動は電力系統の安定性を脅かす要因となります。系統用蓄電池は、発電時の余剰電力を充電し、不足時に放電することで再生可能エネルギーの出力変動を吸収し、電力系統を安定させる上で不可欠な存在となっています。
第二の要因は、電力市場の自由化と多様化が進んでいる点です。世界各国で電力小売りの自由化が進み、容量市場や需給調整市場といった新たな電力市場が形成されています。これにより、電力価格が安い時に充電し、電力価格が高い時に放電することで収益を得ることが可能になりました。このような価格差を活用したアービトラージ(裁定取引)は、系統用蓄電池の収益性を大幅に向上させる要素として期待されています。
系統用蓄電池市場の成長予測
国際エネルギー機関(IEA)の「Net Zero by 2050」シナリオでは、2050年までに大規模な蓄電池の導入が必要であると示されており、その中心となるのが系統用蓄電池です。市場調査機関の予測によると、世界の系統蓄電池市場は年平均成長率20%を超える急速な拡大が見込まれており、2030年には現在の10倍以上の規模に達すると予想されています。
現在、世界各国で大規模な導入プロジェクトが進行しており、日本においても導入に向けた動きが加速しています。

引用元:VISTRA:World’s Largest Battery Facility Gets Bigger
特に、アメリカのカリフォルニア州では2023年時点で5GW超の蓄電池が系統電力に接続され、実際の需給調整に活用されています。一方、中国でも国家戦略として蓄電池の開発が推進されており、世界最大級の電池メーカーである、CATLやBYDが積極的に市場を開拓しています。中国政府は2025年までに30GW以上の系統用蓄電池導入を目標に掲げており、その実現に向けて大規模な投資を行っています。
こうした系統用蓄電池市場の成長を後押ししている大きな要因が、電気自動車(EV)の普及です。電気自動車向けに大量生産されるリチウムイオン電池の価格低下は、系統用蓄電池の導入コスト削減に直結し、電池技術の進化とコストダウンに大きく貢献しています。
投資先としての魅力とリスク
系統用蓄電池は、再生可能エネルギーの拡大と電力系統の変革というマクロトレンドに乗る形で、長期的な成長が期待できる有望な投資先と言えます。
投資の魅力としては以下のような点が挙げられます。
・長期的な安定した収益の可能性:電力市場における需給調整や容量提供、周波数調整など、複数の収入源を確保できる可能性があります。特に、需給調整市場では24時間365日の収益機会があり、安定した収入が期待できます。
・ESG投資との親和性:脱炭素化に貢献する事業であり、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の観点からも評価されやすくなっています。
・技術進化によるコストダウン:蓄電池技術の進歩と量産効果により、今後も導入コストの低下が期待されます。また、性能向上により収益性の改善も見込まれます。
一方で、考慮すべきリスクも存在しています。
・規制環境の変化:各国の電力政策や市場制度によって、収益性が大きく左右される可能性があります。制度変更により想定していた収益が得られないリスクがあります。
・初期投資の大きさ:大規模な蓄電池システムの構築には、多額の初期投資が必要になります。投資回収期間も10年以上と長期にわたります。
・技術的な陳腐化のリスク:蓄電池技術は急速に進歩を遂げている最中であり、将来的に新たな技術が登場し、既存のシステムが陳腐化する可能性もあります。
・運用・保守の複雑性:高度な運用技術と適切なメンテナンスなどの保守管理が求められ、専門的な知識と経験が必要になります。
日本における系統用蓄電池の動向
引用元:経済産業省資源エネルギー庁:エネルギー基本計画の概要
日本においても系統用蓄電池の導入を促進するための政策的な動きが活発化しています。経済産業省は再生可能エネルギーの主力電源化に向けて、系統用蓄電池の活用を重要視しており、市場整備や技術開発支援などを積極的に進めています。
特に、2024年以降に運用が本格化される需給調整市場は、系統用蓄電池にとって新たな収益機会をもたらすものとして大きな期待が寄せられています。この市場では、電力の需給バランスを調整するために、蓄電池が充放電を行うことで対価を得ることができます。
また、電力会社各社も、再エネ出力抑制対策やレジリエンス強化のために、系統用蓄電池の導入計画を具体化しています。北海道や東北など、再生可能エネルギーの導入が進む地域では既に大規模な蓄電池プロジェクトが動き出しており、その効果が注目されています。
まとめ
系統用蓄電池は、再生可能エネルギーの主力電源化と電力系統の安定化に必要不可欠なインフラであり、その市場は今後も力強い成長が予測されます。脱炭素化という世界的な潮流の中で、持続的な成長が見込める数少ない分野の一つと言えるでしょう。
しかし、どのような投資にもリスクは伴います。投資を検討する際には、各国の政策動向、技術の進化、そして個別のプロジェクトにおける収益性やリスクを慎重に見極める必要があります。有望な成長市場であることは間違いありませんが、その成長の波にどのように乗り、いかにリスクを管理していくかが、投資成功の鍵となるでしょう。成功するためには、専門的な知識と長期的な視点を持って、慎重かつ戦略的にアプローチすることが重要です。