2050年のカーボンニュートラル実現に向けて世界各国で再生可能エネルギーの導入が加速する一方で、その出力変動性は電力系統の安定性を脅かす要因にもなっています。この問題の解決策として系統用蓄電池が世界中から注目を集めています。特に中国は、その導入規模と技術開発において世界をリードしており、その動向は世界のエネルギー市場に大きな影響を与えています。
各国で進む脱炭素時代を支える系統用蓄電池
再生可能エネルギー、特に太陽光発電と風力発電は発電量が天候に左右されるため出力が不安定です。電力系統は常に需要と供給のバランスを保つ必要がありますが、再生可能エネルギーの比率が高まるにつれて、このバランスの維持が困難になります。系統用蓄電池は、再生可能エネルギーの余剰電力を蓄電し、需要が高まった際に放電することで、以下の役割を担っています。

出力変動の緩和においては、再生可能エネルギーの急激な出力変動を吸収して系統電力の安定性を高めます。周波数調整機能により、系統電力の周波数変動を抑制し、電力品質を維持します。さらに、送電網の増強抑制効果として、送電網の混雑を緩和し、大規模な送電インフラへの投資を抑制する効果も期待されています。これらの機能により、系統用蓄電池は現代の電力システムにおいて不可欠な技術となっています。
大規模化と技術が多様化する中国

世界的に見ても、系統用蓄電池の導入は急速に進んでいますが、その中でも中国の存在感は群を抜いています。中国は国家主導で大規模な再生可能エネルギー導入を推進しており、それに伴って系統用蓄電池の導入も戦略的に推進しています。
中国国家発展改革委員会と国家エネルギー局は、2025年までに新型蓄電池の累計導入規模を30GW以上とするという野心的な目標を設定しています。この目標達成に向けて多くのプロジェクトが同時進行しており、ギガワット級の大規模蓄電池プロジェクトも複数計画されています。
具体的な事例として、中国電力建設集団が建設を進める青海省海南チベット族自治州の太陽光発電基地に併設された大規模蓄電池プロジェクトが挙げられます。このプロジェクトでは、太陽光発電システムと大規模蓄電池が一体となって運用されており、再生可能エネルギーの安定供給に大きく貢献しています。
また、中国政府は蓄電池産業に対する包括的な支援策を展開しており、研究開発から生産、導入まで一貫したエコシステムを構築しています。この戦略により、中国企業はコスト競争と技術力で優位性を確立し、世界の蓄電池市場をけん引しています。特に、リン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)の技術開発と量産体制は目覚ましく、安全性とコストパフォーマンスに優れたLFP電池は、系統用蓄電池として世界中で採用が拡大しています。
中国企業の動向と技術トレンド
技術面では、CATL(寧徳時代)やBYD、そしてSungrow(陽光電源)といった中国大手メーカーが、系統用蓄電池に特化した製品を相次いで市場投入しています。CATLは2023年に、20年という長期サイクル寿命を実現する液冷システム搭載の商用蓄電システムを発表し、効率性と安全性を両立したソリューションとして業界から高い評価を受けました。
Sungrowは1997年の設立以来、太陽光発電用インバーターから事業を開始し、現在では電力貯蔵システム(ESS)分野においてもテスラを抜いて世界首位の出荷量を達成しています。同社の技術的優位性は、太陽光発電システムと蓄電システムの両方を手がけることで培われた統合技術にあり、世界中で87GWを超える導入実績を有しています。特に2024年にはサウジアラビアで世界最大級となる容量7.8GWhの電力貯蔵システムを納入する契約を結び、その技術力と規模の両面での優位性を実証しています。
さらに、電力系統の運用に蓄電池を統合するエネルギーマネジメントシステム(EMS)や、複数拠点の蓄電池を統合して運用するアグリゲーション技術の開発も急速に進歩しています。これにより、従来の「単一設備としての蓄電池」という概念から「分散型仮想発電所(VPP)」へと運用概念そのものが劇的に進化しつつあります。
Sungrow(陽光電源)の躍進
中国系統用蓄電池市場において特に注目すべき企業がSungrow(陽光電源)です。1997年に設立された同社は、当初太陽光発電用インバーターメーカーとして出発しましたが、現在では電力貯蔵システム(ESS)分野においても世界的なリーダーの地位を確立しています。特筆すべきは、Sungrowが電力貯蔵システムの出荷量において、テスラを抜いて世界首位に躍り出たことです。
Sungrowの技術的優位性は、太陽光発電システムと蓄電システムの両方を手がけることで培われた統合技術にあります。同社は世界中で87GWを超える導入実績を有し、最先端の蓄電システムを提供しています。特に大型蓄電用PCS(Power Conditioning System)市場においては、国有企業との良好な関係を背景に、中国国内市場でのシェア拡大を図っています。
国際展開においても、Sungrowは積極的な戦略を展開しており、2024年にはサウジアラビアの投資会社ALGIHAZと契約を結び、世界最大級となる容量7.8GWhの電力貯蔵システムを納入すると発表しました。このプロジェクトは2024年中に引き渡しを開始し、2025年には全容量を送電網に接続する予定となっており、Sungrowの技術力と規模の両面での優位性を象徴する事例となっています。
日本市場での展開:SUNGROW JAPAN株式会社
日本においては、SUNGROW JAPAN株式会社(東京都中央区京橋)が、親会社の技術力を背景に太陽光発電用インバーターおよび系統用蓄電池事業を展開しています。同社は2025年1月に設立10周年を迎え、日本の再生可能エネルギー市場において着実な地位を築いています。
SUNGROW JAPANは、日本特有の技術要件や規制環境に対応した製品開発を行っており、特に塩害対応などの日本独自の環境条件に対する技術的対応を重視しています。JIS8502の50日試験を実施するなど、日本の厳格な品質基準に準拠した製品展開を行っています。
同社の事業領域は、住宅用から産業用まで幅広い蓄電システムを網羅しており、リチウムイオン蓄電システムや業務用蓄電池などの製品ラインナップを有しています。また、ネクストエナジー・アンド・リソース株式会社との産業用蓄電システムの共同開発・販売提携など、日本企業との戦略的パートナーシップも積極的に推進しています。
2025年1月の10周年記念式典では、新たな低圧ソリューションと系統用蓄電システムを発表し、日本市場における更なる事業拡大への意欲を示しています。特に系統用蓄電システムについては、日本の電力系統の特性を十分に理解した上での技術開発を進めており、日本の再生可能エネルギー導入拡大と脱炭素ソリューの実現に向けた重要な役割を担うことが期待されています。
その他の国の動向
中国以外の各国でも系統用蓄電池の導入が進んでいます。
アメリカ
アメリカでは、再生可能エネルギー導入の加速と電力系統のレジリエンス強化を主要目的として、系統用蓄電池の導入が積極的に推進されています。特にカリフォルニア州やテキサス州など、再生可能エネルギー導入が活発な地域で大規模な蓄電池プロジェクトが次々に稼働しています。連邦政府によるインセンティブ政策や電力会社による入札制度などが導入を後押ししています。例えば、カリフォルニア州のモントレー湾に建設されたモスランディング蓄電池プロジェクトは、世界最大級の蓄電池システムとして国際的な注目を集めています。
欧州
欧州では、REPowerEU計画などの包括的な政策枠組みに基づき、再生可能エネルギーの大幅な導入拡大と同時に系統電力の安定化が重要課題として位置づけられています。ドイツ、イギリス、イタリアなどを中心として、再生可能エネルギー併設型や独立型の大規模蓄電池プロジェクトが増加しています。特に、洋上風力発電と蓄電池を統合したハイブリッドプロジェクトや、送電網の混雑緩和を主目的とした戦略的配置プロジェクトが目立っています。
オーストラリア
オーストラリアは、豊富な再生可能エネルギー資源を持つ一方で、広大な国土における遠隔地への送電コストや系統安定化が長年の構造的課題となっています。世界最大級の蓄電池であるホーンズデールパワーリザーブ(テスラ社のメガパックを使用)が運用開始以降、顕著な成功を収めたことを契機として、多くの大規模蓄電池プロジェクトが計画・建設されています。
今後の展望
中国は、その巨大な国内市場と強力な国家戦略により、蓄電池技術のイノベーションと世界への普及拡大を継続的にけん引していくことが予想されます。世界全体のエネルギー転換において、系統用蓄電池が果たす戦略的役割はますます重要性を増しており、技術革新と市場拡大の両面でその動向に継続的な注目が集まることでしょう。今後数年で、蓄電池技術はエネルギーシステム全体の根幹を支える基盤技術として、さらなる発展を遂げることが期待されています。
参考
- 経済産業省:参考資料(蓄電池)
- 経済産業省:蓄電池産業戦略の推進に向けて
- 自然エネルギー財団:中国における電力部門の低炭素化の動向:遂に自然エネルギー発電が火力発電を超えた
- CATL、スマートエネルギーWeekで液冷式CTP蓄電ソリューションを紹介
- 巨大蓄電プロジェクトから米国のトレンドを読む
- Neoen and Tesla deliver innovative inertia services at Hornsdale Power Reserve big battery in Australia
- 風力に150MWの蓄電池を併設、火力の調整力代替
- 欧州委員会がロシア産エネルギー脱却に向けたロードマップを加盟国へ提示
- Global Energy Storage Growth Upheld by New Markets
- China Dominates Clean Technology Manufacturing Investment as Tariffs Begin to Reshape Trade Flows
- Batteries and Secure Energy Transitions – Analysis – IEA
- U.S. Battery Storage Market Trends