「輸出増値税(付加価値税)還付制度」の段階的廃止が正式に発表
2026年1月、中国政府(財政部・税務総局)は、世界のエネルギー市場のパワーバランスを揺るがす重要な決定を下しました。これまで中国製蓄電池の圧倒的なコスト競争力を下支えしてきた「輸出増値税(付加価値税)還付制度」の段階的廃止が正式に発表されたのです。
還付率が9%から0%になった場合、単純計算で輸出価格に約9%前後の上乗せ圧力が生じます。
日本の系統用蓄電池市場で主流となっているCATL(寧徳時代)、BYD、EVE Energy、さらにはエネルギーソリューションを展開するファーウェイ(華為技術)といった主要メーカー各社は、この制度改定により、輸出価格の抜本的な見直しを迫られています。
還付率引き下げのスケジュールとコストへの衝撃
リチウムイオン電池(系統用蓄電池を含む)の還付率は、以下のスケジュールで削減され、最終的に消滅します。
- 現在:9%(2024年12月に13%から引き下げ済み)
- 2026年4月1日より:6% へ引き下げ
- 2027年1月1日より:0%(全面廃止)
日本国内メーカーへの深刻な波及効果
今回の措置は、単に「中国ブランドの蓄電池」だけの問題に留まりません。日本国内の蓄電池メーカー各社にとっても、深刻なコスト増要因となります。
- 「中身」は中国製という現実: 現在、日本ブランドとして販売されている蓄電池の多くは、心臓部である「蓄電池セル」をCATLやBYD、EVE Energyといった中国メーカーから調達しています。世界生産の約75%を占める中国製セルへの依存度は極めて高く、セル自体の輸入価格が上昇すれば、必然的に「日本製蓄電池」の製造原価も押し上げられます。
- 国内サプライチェーンへの打撃: 日本のメーカーが国内で組み立てを行っている場合でも、基幹部品であるセルのコスト上昇分を完全に吸収することは不可能です。結果として、「日本製」を冠する製品であっても、2026年以降の大幅な値上げは避けられない状況となっています。
中国メーカー全体への影響と「大幅値上げ」の背景
中国の輸出増値税還付は、実質的な輸出補助金として機能してきました。メーカーは輸出時に戻ってくる税還付分を見込んで、戦略的な安値を提示できていたのです。
- 利益率の圧迫: 世界シェアを争うCATLやBYDなどの大手メーカーにとって、最大9%(現在の還付率分)のコスト上昇を自社で吸収することは不可能です。
- 販売価格への転嫁: 蓄電池セルの価格下落が底を打ちつつある中、今回の還付廃止分はそのまま「日本市場での販売価格」に上乗せされる形で転嫁される見通しです。
- 国内プロジェクトへの影響: 日本国内で進行中の系統用蓄電所プロジェクトにおいて、機器調達コストが約1割上昇することで、事業収支(IRR)の大幅な悪化が懸念されています。
2026年末までの「駆け込み需要」と供給リスク
2027年の完全廃止を前に、2026年後半には還付金が適用されるうちに出荷を終えようとする「駆け込み輸出」が世界規模で激化します。
- 納期遅延の懸念: CATL、BYD、EVE Energy、ファーウェイなどの主要メーカーへの注文が集中し、生産ラインの逼迫や物流(コンテナ船)の混乱が予想されます。
- 早期発注の重要性: 適用税率は「船積み日」を基準に判定されるため、2026年中に確実に日本へ到着させるための綿密なスケジュール管理が、コスト増を回避する唯一の手段となります。
エビデンス
- 中国当局による公式声明: 中国財政部・国家税務総局 公告2026年第2号 「太陽光発電および電池製品の輸出増値税還付政策の調整に関する公告」(2026年1月9日発表)。
- 対象品目: HSコード「8507.60」(リチウムイオン電池)および「8507.80」(その他の蓄電池)を含む。CATL、BYD、EVE Energyのセルおよびファーウェイのシステム製品がこの区分に含まれます。
- 政策の背景: 中国政府は、国内での過剰な低価格競争(内巻)を抑制し、業界の健全化を図るとともに、国際的な補助金批判を回避する目的でこの措置を断行しました。
- 市場分析: 「中国の輸出還付金廃止に伴う蓄電池価格への影響調査」に関するWood Mackenzie社およびブルームバーグNEFの2026年2月付分析レポート。